『国粋主義の支柱だった宣長思想を解剖。読み通すには時間が必要。』
宣長の読書論では、小林秀雄が有名です。それは飽くまで宣長を信じ、その芯部に自分を潜り込ませて、読み尽くそうという作業でした。これに対して著者は、宣長を自分の前に置いて、その著作を精読し、冷静に吟味・分析しています。
時代順に書かれていますが、中味は重く普通の伝記ではありません。昭和期に実際の政治体制になった排外的で天皇中心を掲げる皇国主義。そこに根拠を与えた宣長の思想、その論理と生成過程が、明らかにされています。
宣長は師の真淵が万葉集で試みたことを、古事記に適用しました。漢ごころの排除と古学び、さらにテキスト注釈の目的が道の学びだということです。これらを核に、借り物の漢字で書かれたテクストから、もとのヤマト心を正しく受容するために、ヤマトコトバを訓み出す作業を古事記で行ったそうです。古事記テキストより前にあった筈の古日本の考えを知るために、文字の意味を尋ねる作業をしていくうちに、これが、そのテキストの絶対化、神典化に変化した過程など、面白く読みました。
著者はこの本で、宣長の思想が、どの分岐点から、排外的な日本絶対という思想になっていったか、どこが転換点となったか、その境界線を厳密に引く作業に努められているように読めました。
著者の力量だと思いますが、読み終わってから、宣長の巨大な学者像が目の前に立ち塞がり参っています。本書には各章末に資料として宣長の原文が載せられています。宣長を自分でゆっくり読んだらと誘われているようです。