『華やかな国の重い歴史を楽しく語る』
スペインという国、小生はモチロン行ったことがありませんが、闘牛だのフラメンコだの、何やら情熱的でエキゾチック、よく分からないけど楽しくて明るい国、というイメージです。歴史的にも、イスラム勢力とキリスト圏の交錯地、ハプスブルク世界帝国の牙城、そして大航海時代の先駆者など、派手で華やかな雰囲気に包まれているように見えますが、実際のところ、その歩みには、やはり重くて深いものが秘められているようです。
本書は、スペイン史上の幾つかの場面をピックアップし、それぞれの時代背景等にも簡単に説明を加えつつ、オムニバス風にこの国の歩みを紹介するものです。ターリックのイベリア征服、レコンキスタ運動と異端迫害、カール5世のスペイン統治とレパントの海戦、無敵艦隊による英国進攻の計画、スペイン内戦とETAの跳梁跋扈など、この国の歴史を彩ったハイライトとも言うべき名シーンが取り上げられており、きわめて大雑把ながら、この国のアイデンティティー形成につながる粗々の流れが一望できるように工夫されています。
著者の専門はスペイン文学というだけあって、本書の文章は詩的な表現に彩られています。まがりなりにも歴史の本にしては情緒的に過ぎるというご意見もあろうかとは思いますが、読んでいて殊のほか味わい深く、「物語」と銘打った本シリーズに相応しい趣向ではないかと思います。
スペイン史をきちんと理解したいという方々にはともかく、「スペインって一体どんな国なのか、取り敢えず知りたい」という向きには手ごろな良い本だと思います。